ゲイが市井で暮らすのに、嘘はいくつ必要ですか？ もうすぐ。

隣の住人は夜出かけて朝帰ってくる。
何のお仕事かは知らないが、大変だなと常々思っている。
俺も昔は夜のバイトをしたこともあり、その上朝のバイトもしていて
睡眠時間２時間などという往年のピンクレディのような
生活をしていたこともあったから、その気持ちがよくわかる。
ただ隣の住人の姿を見たことがない。男なのか女なのかもしらない。
引越しの挨拶にお伺いしたのだが、留守のためあえずじまいで現在に至る。
最近のマンションなどでは隣の住人を知らなくても当たり前だと
誰かに言われたこともあり、そうなのかとも思っている。
引越しのための荷物も片付かないまま、リビングで転寝をしていると、
夜出かけた隣の住人が朝帰ってきた。
何のお仕事かはしらないが、おおむね察しはつく。
警備関係や、ホテルの深夜番などであろうと思い、大変だなと思っている。
俺も昔は夜のバイトをしたこともあり、その上朝も昼も働きづめで、労働者搾取で、
睡眠時間足りてないじゃん状態で、往年の少女隊のような生活をしていたこともあり、
そのような生活者の気持ちがわからなくもないのだ。
ただ隣の住人は姿を見たこともないのだが、男だとわかっている。
引越しの挨拶もまだだったのだが、それはどうでもいい。
ヤニ臭い服の臭いや、ドアの閉め方や、歩幅のリズムで男だと判断するのだ。
最近のマンションの住宅事情じゃ隣近所を知る必要性がないということを
テレビで誰かが言っていたのを見たことがある。
そんなバカな話はないだろうと憤慨しているといつの間にか寝てしまったみたいで、
隣の住人が帰ってきたことに気がついた。
隣の住人は夜出かけて朝帰ってくるような不届きモノなのだ。
何の商売をしてるのか非常に興味があるのだが、どうせロクでもないと思う。
俺も昔はとんでもないような商売にみをやつし、夜から朝から昼から夜まで
絶え間なくろくでもないことに身を落とし、往年のセイントフォーのような生活
をしていたからいまだに、ろくでもないのだ。
隣の住人は姿を一切見せないのがあやしいからろくでもない。
どうせ引越しの挨拶もろくに聞かない様なズベ公だと思うから無視してやった。
化粧臭い残り香や、ハイヒールのカカトの音でどうやら女だとは判断がつく。
女なんかどうせろくでもないのだ。
マンションの隣のスーパーに何を売っていようが興味がないと言っていたのは
キャンベル＝アダムスだったのだろうか？
そんなことを考えているうちに隣の住人がとうとう帰ってこないからどうしましょうと
大家が相談にきたりしたのだが、あいにく俺は研修中のためそのようなことに対処できぬ
と言っているうちに、大家が俺をにらみつけ、スゴスゴと退散してしまった。
そうして朝が来て隣の住人が帰ってきた。
隣の住人は朝出かけて昼にも出かけて夜にも出かけて、帰ってくる姿など見せることなく
生活しているのだ。男でも女でもどちらでもないような姿を見せない。

そうやってまた、概念としての朝が来るまで隣の住人が帰ってくるのかどうかわからない。