ゲイが市井で暮らすのに、嘘はいくつ必要ですか？ もうすぐ。

恭介兄さんと連動するわけじゃないけれど少し
不思議な体験をしたことがあるのでここに書いてみる。

本当は書くか書かないか迷ったんだけど。

ある秋の日、視覚障害者の方をお手伝いする機会があった。
そんな大それたことでもないんで、詳細は省く。

田宮さんという年配の方と一緒に買い物に行くことになった。
俺が一応サポートさせていただいて、僕の右ひじを田宮さんが
握って先導していく。手をもってサポートすることはＮＧだと
以前習ったばかりだった。それはまぁいいのだが。

秋なのに暑いですねなどと、世間話をしながら近所のコンビニを
目指して歩いていた。コンビニで品物を説明しながら買い物を
楽しみ帰ろうとしたとき、田宮さんが公園で少し休みたいと言った。
それじゃさっき買ったアイスキャンディでも食べましょう
かということになり、帰り道から少し外れた児童公園をめざした。

ベンチに腰掛けてアイスキャンディを食べかけたときに田宮さんが
非常にいいいにくいのですがと前置きしながら語りかけてきた。

「非常に言いにくいのですが、怒らないでくださいね」
「はい？」
「私、目は不自由なんですけど、少しちがったものが見えるんです。
　霊感とかじゃなくて言葉にしにくいんですけど、その人の背景
　みたいなものが見えることがあるんです」
「はぁ。」
「で、見えたんです」
「はぁ、あまりよくわからないですけど守護神とか前世とか
　そういうお話ですか？」
「いえそういうお化けとかじゃなくて。間違ってたら本当にごめんなさい。
　某さんお友達と一緒に住んでらっしゃいますか？」
「え？」
「男のお友達ですよね？」
「・・え？」
「同性愛のご関係だと思うのですが。
　もちろん絶対にこんなこと人に話しません。
　変な話でごめんなさい。ただこういう自分の感じ方があってるのか
　どうか聞いてみたかったんです。変なこと言ってごめんなさい」

「いえ男となんか暮らしてませんが」嘘をついた。
だって今日会ったばかりの人に「当たり！男と同棲している同性愛者で～す」
とは言えないでしょ。

「そうですか・・・。変なこといってすみません」
田宮さんはそれで満足したのか、急に黙り始めた。
嘘がばれて怒ってるんだろうか？
というかそもそもなんでそんな風にかんじたんだろうか？

本当に・・・見える・・・・・・・のか？

「あの、どうして僕が男と暮らしてると思われたんですか」

「いえ、なんか幸せそうに笑っているあなたともう一人の男の人が
見えたんです。仲の良いお友達というより夫婦のように見えたので。
私自身が見えた見えたって言いたいだけなのかもしれませんけどｗ
昔はちゃんと目が見えたんですよ。５年ほど前に弱視になって最近は
ほとんど見えないんですけど、なんかたまにボンって目に浮かぶんです。
その人の生活とか環境とか関わりのある人たちが。
もちろんそんなこと当人には言いません。
妻には時々言うのですが、あなたの記憶の情景が浮かんでくるん
じゃないのと言うだけであまり信用してないんです。
ただ今回某さんのはあまりにも珍しかったんで、子供みたいにどうしても
確認したかったんです。
間違えてたら偉いことになるところなのに。すみませんすみません」

すごい。ＳＦだと思った。こういう人が本当にいるんだ。
なんかのトリックなのかとかも思ったけど、トリックをする意味がない。

「そうなんですか・・あの実は」

「ごめんさい。悪戯が過ぎました。もう帰りましょうか」
といってまた元の道を帰っていった。

それだけの話だ。

少しどころか大いに混乱したまま俺も家に帰った。

どう分析します？本当に見えたんでしょうか？
いや色々考えられるよ。
俺があまりにもナヨナヨしてオカマっぽかったから、からかったとかねｗ

でも。

彼は見えたんじゃないだろうかって今でも少し思う。

そういえばと思い出す。
その前の日、旦那の誕生日で一緒に仲良くお祝いしたところだった。
残像的な何かが見えたのかなと思う。

霊感とか超能力とかそういうところに話を持っていくと少し
違うような気がする。
彼の視力が衰弱していったかわりに別の能力が鍛え上げられること
もあるんじゃないのかなと思うのだ。
そういうことがあってもいいんじゃないのかなと。

それ以来田宮さんにはあっていない。