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父親~中篇~

体が震えた。
人を一人殺めようと思うなんて正気か?

そのころ、ソイツからの俺への暴力は減っていたが
反比例して母への暴力が増えていった。
おそらく男としてのプライドが保てなくなってきたのだろう。
チンピラ風情の収入など、母の商売の才覚の前にはカスのようなものだった。
そのうち、母に嫉妬するようになった。
店の客と寝てるんじゃないのかと疑うようになった。
自分のことを店の酒のツマミに
して笑ってるんじゃないのかと考えるようになった。
小さい男だ。
母が出勤した後、2時間後ぐらいに車で店に突然のりつけては、
客にからみ、母にからみ、店をめちゃくちゃにし、夜中に二人帰っては
殴り合いの喧嘩をはじめ、近所に響くぐらいの罵声が飛び交うようになっていた。

終わらせようと思った。
もうたくさんだ。
こんな馬鹿な男にすべてを台無しにされてたまるものか。
もう一度ピストルを握りなおした。汗ばんだ手ではうまくつかめない。
落ち着こうと思い、台所で水を何度も飲む。
鼓動がドンドンと速く大きくなっていく。
その日、そいつは弱い酒をかっくらって居間でいびきをかいて寝ていた。
母が仕事から帰ってくる前に終えなければならないと思った。
深夜0時を回ったところだ。
あまり時間の猶予はない。

しかし、いざとなるとソイツに近づくのが怖かった。
間近で人が死ぬのを見ることに耐えられるか自信がなかった。
でも、やらねばならない。と思い返す。足が震える。
このままではコイツのためにすべてが損なわれてしまう。
血は流されねばならないと思った。

その時、2階で叫び声に近い泣き声がした。
サイレンのように鋭い響きだ。
幼稚園にあがったばかりの妹の声だった。

あわてて2階にあがり、妹の様子を見に行く。
すると布団の上でばたばたと走り回りながらなワンワンと
声をあげて泣いている姿が目に飛び込んできた。
夜中に妹のそんな姿を見るのは初めての事だった。
「どうしたん?いつもは朝までぐっすり寝るのに。なんかしんどいんか?おしっこ?」
と妹に話しかけるのだが、かぶりを振って泣きじゃくり、
抱きついてくるばかりで一向に要領をえない。
アイツがこの声で起きることは面白くない。
妹を抱きかかえ毛布を肩からかぶせてあげて外に出ることにした。

ようやく妹が話し出す。
「あんな、お兄ちゃんがないなくなるねん。あたしたちな、兄弟の前からお兄ちゃん
だけ消えてしまったん。ママも知らんっていうしパパも知らんっていうし。
エレクトーンのお迎えにもきてくれへんし、呼んでもどこにもいいひんねん。
お兄ちゃんがいいひんと嫌やのに」
そう一気にまくし立てた後、また泣き始め、しゃくりあげてはぎゅうっと俺の背中を
痛いぐらいにつかんで離そうとしなかった。

怖い夢を見たんだ。
背中をなぜながら安心させようとした。
それは夢であって現実じゃないんだと何度もやさしく話す。
「大丈夫、俺ここにいるやん。どこにも行ってへんやろ?
夢を見ただけやから大丈夫。泣かんでもええんやって。」
寝ぼけていた頭が少しづつ現実へとシフトしてきたようで、しゃっくりは
なかなかとまらなかったが安心したのか、様子は落ち着いてきた。
そしてそのまま妹と二人で夜の公園へと一緒に散歩して
二人でブランコにのったりしながら気分を落ち着かせた。
俺のズボンのポケットにはピストルがはいったまま。

あまり、超常現象じみたことなんか言いたくないんだけど、
それでもそれは本当に起こったことだった。
結果として妹の見た夢が俺を止めたのだ。偶然にしろ、なんにしろ。
そのとき、俺は寝ていた妹に俺の黒い感情が伝染したのだと思った。
神様、と少し口に出していいたくなった。
家に帰り、妹を寝かしつけた後、布巾でピストルについた汗をふき取り
(なぜか、なかなかそれは取れなかった。)
もう一度新聞紙で包み直し、たんすの奥へと戻した。


そうして、俺は高校生になった。
俺が入った高校はどちらかというと裕福な家庭で育った人たちが多い
進学校だった。
なんでよりによってそんな学校に入ってしまったんだろう?

親の職業欄に「自由業」としか書けず、教師から「自由業って具体的に何?」
と訊かれるごとに黙り込むしかなかった。
そのころ俺にはひとつだけ将来の夢として考えていることがあった。
高校を出たらすぐに家を出よう。
それは高校生にとって、とても悲しい夢だった。

この家で邪魔なのは俺なんじゃないのかと考えるようになっていった。
母とソイツと妹たちだけならば、それは血のつながったきちんとした
家族になりえるし、それが自然な形なんだと思った。
クローズドサークル。完全に閉じられた輪のようにきちんとした家庭。
俺という異分子さえいなければいいんじゃないのか?
それはかなりつらい思考の帰結だった。
俺がいなくなれば家族として再生する、そうあってほしい。
母のために、兄弟たちのために。
そして、もちろん俺自身のために。
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(yore)2BOW

Author:(yore)2BOW
桜田淳子「20歳になれば」の替え歌で

まってください 44歳になるまで
まだ言わないで さよならだけは
まってください 読者の興味
はなれたことは わかってるけど

更新するわ なるべくするわ
43歳のうちに 43歳のうちに

44歳になれば 体重減らす
ユニクロで服が買えるぐらいに
44歳になれば 彼氏をつくる
無理じゃないよね?多分多分w

ラララララララ・・・

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